親告罪規定は、被害者に違法性の有無を問う趣旨ではない

しっぽのブログ: 強姦罪の親告罪と、著作権の親告罪は、ちょっと、違うかもしれない。で、なぜ親告罪の規定を設けた趣旨の話をしつこくするのかやっと分かった気がしました。
著作権法違反等における親告罪の規定が、被害者に違法性の有無を問う趣旨であると誤解しているのではないでしょうか。

被害者のプライバシー・名誉等を保護するため

強姦罪のように、被害の軽重とは無関係に親告罪とするのはこちらですね。
痴漢で、強制わいせつ罪が適用されるほどの被害があれば親告罪で、迷惑防止条例違反程度だとそうではないのは変ではないか、というのは別の話。

被害が軽微であるため、被害者の意に反して訴追することが適当ではないため

問題はこちらですね。
黒澤睦のホームページ/黒澤睦「親告罪における告訴の意義」法学研究論集第15号(明治大学大学院,2001年9月29日)1-19頁などで詳細に解説されていますが*1、あくまでも犯罪の被害が軽微であるから親告罪としているのであり、被害者の意向しだいで犯罪ではなくなるという趣旨ではないことを強調しておきます。

結論:親告罪とした趣旨がどうであれ、告訴の有無は犯罪の有無と無関係

告訴がなくとも犯罪は犯罪であり、違法性があるということです。いくら親告罪の規定が設けられている理由を説明されたところで、著作者からの抗議が無い限り違法行為ではないとする主張を肯定する根拠とはなりえません。

文化を守るためなら、でたらめな法解釈が許されるのか

私は、許されないと考えます。
法解釈を別にすれば、実務上は、著作権法違反について例えば黙認を許容すべき場合もあるように考えますが*2、著作者の抗議がなければ合法という主張は、法解釈の話です。主張される法解釈が明らかな誤りであれば否定されるべきであるし、そのような誤った法解釈に基づいて論を展開することも同様に許されないでしょう。

*1:「家族関係の尊重」を理由に含める三分説や、訴訟外の紛争解決により刑事司法上の事件の解決とみなすことができるためであるとする見解も示されていますが、ここでは触れません。

*2:性的要素を含む二次創作を、明示的には許諾したくない等の事例を想定することは容易です。

私的まとめ:著作者の抗議なき権利侵害は合法か

議論の経過

  1. 著作者の抗議がなければ、著作権侵害は違法ではないとの主張(しっぽのブログ: アニメ業界の体制とか、発言を批判すると、違法アップロード?
  2. 強姦罪であれば、被害者の抗議がなくとも違法であるのだから、著作権侵害も同様に扱うべきであると主張(親告罪の著作権法違反に親告罪の強姦罪を比喩として用いる - Guidance Limit
  3. 著作権法違反と強姦罪では、親告罪の規定を設けた趣旨が異なり、同列に扱うべきではない。著作権侵害は著作者の抗議がなければ違法ではないとの主張(しっぽのブログ: 強姦罪の親告罪と、著作権の親告罪は、ちょっと、違うかもしれない。
  4. 著作者の明示的な許諾がなければ違法であるとの主張(著作権法違反とか親告罪とか強姦とか - Guidance Limit
  5. 親告罪の規定は、被害者の意向しだいで犯罪ではなくなるという趣旨で設けられたものではない。著作者の抗議がなければ著作権侵害は違法ではないとの見解は誤りであると主張(親告罪規定は、被害者に違法性の有無を問う趣旨ではない - Guidance Limit

一般論として違法と言っただけなのに - Guidance Limitは、関連する文章ではあるので一応示しておきますが、直接は関係のない内容になっています。

私的結論

あくまでも法解釈に基づくもので、実務上どのように取り扱うのが無難かとは無関係です*1

  • 著作権侵害は違法である。違法性の判断に、著作者の抗議の有無は無関係である。
  • 黙認は、著作権侵害を否定する理由にはならない。よって、黙認があったとしても違法である。なお、黙認に対する一方的な期待については、法で保護すべき性質のものではないとする見解がある。

感想文

黙認が法的には認められない等、自分の認識を改めることができて有意義でした。また、議論とは直接関係ありませんが、なお、従来は、刑事司法機関に届出や告訴をしないことが、いわゆる 「泣き寝入り」として、消極的に評価されてきた。しかし、このような届け出ないあるいは告訴をしないという判断は、被害者等の告訴権者によって行われた自己に関係する様々な利益の比較考量による積極的な自己決定であり、安易に消極的評価を加えるべきではない(79)との指摘は重く受け止めるべきであると思いました。
しかし、議論の経過に関して言えば、およそ建設的とは言いがたいものだったように思います。議論の相手より法律に詳しいかのように装いながら*2親告罪の規定について基本的な理解に誤りがある様子であったり、法解釈の議論をしているのに、印象操作を意図しているのではないかと疑いたくなる個別事例の提示を繰り返したりといったことをされるのは、気分のよいものではありませんでした。
この議論は過去に2度ほどやったことなんだけど、毎回失敗している気がする。と書かれていますが、私が今回した議論に関して言うなら、およそ誠実に議論をする態度のない相手であったというのが印象で、こういうことを繰り返していたのであればうまくいくはずなどないであろうと思いました。

*1:って書いておかないと頭悪い人に変な文句言われるんだよね。

*2:相手である私が、法学をきちんと学んだことのない素人であるという点だけは正しい判断ですが。